エッジコンピューティングとは?活用するメリットと課題について詳しく解説
公開日:2022.09.29
スキルアップIT分野に関わる人であれば、エッジコンピューティングという言葉を聞いたことがあるでしょう。近年、IoTなどの技術が発達していく中、エッジコンピューティングの重要性も高まっているといえます。
今回はエッジコンピューティングについて基本から理解したい人、今後活用したいと考えている人に向けて、エッジコンピューティングの概要、クラウドをはじめとした他の技術と関係、活用のメリットなどを解説します。
また、エッジコンピューティングを担うIoTエンジニアについても触れるため、IoTエンジニアに興味がある人にも有益な内容として活用していただけるはずです。ぜひお読みください。
エッジコンピューティングとは
ここではエッジコンピューティングとは何か、基本的な概要に加え、クラウドコンピューティングといった関連性のある技術について解説します。
エッジコンピューティングの概要
エッジコンピューティングとは、現場のデータを収集する末端機器(センサー、カメラなど)から物理的に近い位置でデータ処理を行う考え方のことです。エッジコンピューティングのエッジが「縁(ふち)」という意味であることからも、システムの周縁部で動く仕組みであることがわかります。
膨大なデータが発生するIoTの領域では、通信の高速化やネットワークの負荷を軽減する上で欠かせない技術です。IoTは製造業をはじめとして幅広い業界で活用が進んでいますが、エッジコンピューティングもIoTと同様にあらゆる分野で活躍する技術といえるでしょう。
クラウドコンピューティングとの関係
クラウドコンピューティングは、エッジコンピューティングと同じ文脈で語られることの多い概念です。ここでクラウドコンピューティング、つまりクラウドの意味についておさらいしましょう。
クラウドとは、簡単に表現すると「自前でハードウェア及びソフトウェアを準備せず、オンデマンドでITサービスを利用する」という考え方のことです。クラウドを前提としたシステムでは、基幹となるインフラをデータセンターなどに集約して全体管理するケースが多いです。
しかし、近年はIoT技術の発達によってシステムで扱うデータが膨大になり、ネットワークの負荷が高くなってしまうことが増えました。そこで、センサーなどのIoT機器から物理的に近い位置でデータを処理することが求められるようになり、エッジコンピューティングが広がったのです。
このことから、クラウドとエッジコンピューティングは相互を補完し合う関係にあるといえるでしょう。
エッジコンピューティングに関係する技術
ここでは、エッジコンピューティングと関連性の深い技術である5GとIoTについて解説します。
5G
5Gとは「第5世代移動通信システム」の略称であり、スマートフォンをはじめとした通信機器で利用される規格です。5Gでは通信の高速化、大容量化を実現できるため、リアルタイムでの通信が必要となる自動運転、VRなどの基幹技術として注目されています。
エッジコンピューティングがデータの高速処理を担うのに対し、5Gは高速なネットワーク環境を提供するため、システム全体で見ると両者は補完し合う関係にあるといえるでしょう。
IoT
IoTはInternet of Thingsの略称であり、「モノのインターネット」と呼ばれる概念です。IoTではセンサーなどの機器から膨大なデータを収集し、リアルタイムで処理することが求められます。
クラウドで構成されたIoTでは、現場で収集したデータをクラウド側に転送するため通信の遅延が発生していました。そこで注目されたのがエッジコンピューティングです。
エッジコンピューティングによって、現場から近い場所でのデータ処理が可能となり、さらなる性能向上が期待できるようになったのです。
当サイトでは、IoTについて詳しく知りたい方に向けた解説記事も掲載しています。関連記事をご覧ください。
エッジコンピューティングの現状
クラウド、IoT、5Gといった現在進行形で普及が進む技術と関係が深いエッジコンピューティングですが、現在はどのような状況なのでしょうか。
国内におけるIoTインフラの市場は、年間10%を超える勢いで拡大しています。特にエッジコンピューティングは、今後もクラウドで扱われるデータ量の増加により2030年までは市場の拡大が続くと見られているのです。
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※参照元:国内エッジインフラ市場予測を発表 │ IDC Japan株式会社
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※参照元:エッジコンピューティングの世界市場(2022-2030年):市場予測(コンポーネント・用途・企業規模・産業)・COVID-19の影響・地域的展望・成長の潜在性・市場シェア │ 株式会社グローバルインフォメーション
エッジコンピューティングの導入メリット
ここでは、エッジコンピューティングを導入することで期待できるメリットについて解説します。
セキュリティリスクの低減
IoT機器とクラウド環境との通信は外部ネットワークを経由するケースがあり、情報漏洩のリスクが付きまといます。また、クラウド環境そのものがサイバー攻撃を受ける可能性も考えられます。
エッジコンピューティングでは通信が内部で完結するため、機密データをできる限り外部に出さずにデータ処理を行うことが可能です。個人情報などの機密データはエッジ側で処理し、機密性の低いデータをクラウド側に転送するなど、柔軟な設計が可能になるでしょう。
通信の高速化
IoTが使われる自動運転やVRといった分野では、情報が安定的にかつリアルタイムで伝達されることが必須条件となります。
エッジコンピューティングにより、IoT機器の周辺でデータ処理が完結させられるため、システム全体のデータ通信量が減ることによるネットワーク高速化が期待できます。高速通信を実現する規格である5Gとの相乗効果もあるでしょう。
通信が高速化されることは、エッジコンピューティングがIoTにもたらす最も大きなメリットといえます。
通信コストの低減
クラウドをベースとしたシステムでは、データセンターへの通信料に応じて課金されるケースが多く見られます。つまり、クラウドに転送するデータ量が多ければ多いほどコストが高くなるのです。膨大なデータをやりとりするIoTにおいて、通信コストの高騰は課題となっていました。
エッジコンピューティングで使われるデバイスは、IoT機器と物理的に近い位置にあるため、エッジ側で処理するデータについては通信コストの増加を危惧する必要はありません。本来クラウド側に転送されていたデータをエッジ側で処理することにより、システム全体の通信量を減らし、コスト削減につなげているのです。
災害リスクの低減
エッジコンピューティングは災害リスクの低減、つまりBCP対策にも役立ちます。
クラウド環境を単一のデータセンターで管理していた場合、災害発生時のバックアップデータが存在せず、業務が停止してしまう可能性があります。
重要なデータをエッジ側で管理していればクラウド環境が復旧するまでの間、最低限の業務を継続することができるでしょう。また、エッジとなるデバイスを冗長化することによって、さらにシステム停止のリスクを下げることも可能です。
エッジコンピューティングでできること
エッジコンピューティングを活用することで、具体的に何ができるのでしょうか。ここでは、代表的な事例をいくつか紹介します。
スマート工場におけるデータ処理
現在、最もIoTが活用されている領域の一つが製造業です。特に工場においては、生産管理、品質管理設備保全など広い用途でIoTが使われており、エッジコンピューティングも重要な役割を果たしています。
工場では多様かつ大量のデータが発生し続けるため、これらのデータを全てクラウドで処理すると、通信の遅延が発生しリアルタイムでの状況把握ができなくなります。
エッジコンピューティングを活用することで、即時性が求められるデータは工場内で処理できるようになり、システム全体の性能向上につながるでしょう。
自動運転
近年研究が進められている自動運転においても、エッジコンピューティングは必須の技術です。
自動運転では走行経路上にある障害物を画像から瞬時に認識し、適切な方向転換を図る必要があります。車両内部にエッジコンピューティングの仕組みを備えることで、画像データをリアルタイムで分析することが可能です。
また、エッジとなるデバイスについても小型かつ高性能に進化しており、複雑な画像分析を可能にするGPU(画像処理半導体)が搭載されるようになっています。
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※参照元:自律走行に伴うエッジコンピューティングの進化 │ アクシオン
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無人店舗の運営
近年は慢性化する人手不足から店舗を無人化する試みが各所でなされていますが、ここでもエッジコンピューティングが活躍します。無人化された店舗では、来店客の認識や購入品の決済などを行うために、カメラから収集した画像を認識してリアルタイムで処理する必要があります。
無人店舗においても自動運転と同様にGPUがエッジデバイスとして活用されており、人手に頼らない円滑な店舗オペレーションを実現しているのです。
エッジコンピューティングを導入する際の注意点
ここではエッジコンピューティングを導入する際の注意点についていくつか解説します。
エッジ側のセキュリティ対策が必要
エッジコンピューティングでは、エッジ側で使われるデバイスについても適切なセキュリティ対策が必要です。
エッジ側のデバイスもそれぞれがコンピュータであるため、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃のリスクを持っています。エッジデバイスへの侵入や攻撃を許してしまうと、システム全体への波及も避けられないでしょう。
また、大規模な工場に導入されたデバイスであれば、管理すべき機器の数も多くなるため、セキュリティ管理の作業が複雑かつ負荷の大きなものになります。エッジ用のデバイスにはさまざまなモデルがありますが、中には安価ではあるもののセキュリティ対策が不十分な製品もあるため注意が必要です。
製品を選定する際には、「保存されるデータの暗号化は可能か」「セキュリティが確保された通信プロトコルが使用されているか」などの観点を持つとよいでしょう。また、多数のエッジデバイスのセキュリティを一元管理するソフトウェアを導入することも、セキュリティ管理を効率化する上で重要です。
ハードウェアのコストがかかる
工場などの大規模な現場にエッジコンピューティングを利用する場合、IoT機器の数に応じて多数のエッジデバイスが必要になるでしょう。当然ながら、エッジデバイスが増えるのに比例してコストも膨らみます。
コストを抑えるためには、エッジ側で処理するデータとそうでないデータを分類し、優先順位をつけてエッジデバイスを導入することが重要です。また、一つのメーカーから購入する場合はボリュームディスカウントの適用を交渉するなど、調達上の戦略を立てるのもよいでしょう。
システム全体の可用性確保が必要
エッジコンピューティングは、現場で収集したデータを最前線で処理することが役目です。そのため、トラブルによる稼働停止は避けなければなりません。
システム全体での可用性を確保するためには、エッジデバイスについても、故障の際にバックアップが起動するような冗長化構成をとることが一つの手段です。
また、エッジデバイスの監視を一元的に行うソフトウェアを導入するなどして、トラブルの予兆をつかむことも検討してみましょう。
エッジコンピューティングを担うIoTエンジニア
ここでは、エッジコンピューティングの担い手となるIoTエンジニアについて解説します。
IoTエンジニアとは?
IoTエンジニアは、IoT技術の導入や開発を担う職業です。IoTに関する広い知識とスキルが求められることから、常に最新技術について学習することが求められるでしょう。
IoTエンジニアに求められるスキル
IoTエンジニアには、IoT機器の扱いやプログラミングに留まらず、システムを構成するネットワーク、クラウドも含めた総合的なスキルが求められます。しかし、全てのスキルに精通している必要はなく、不足している部分については各分野の専門家に協力を仰ぐことが重要です。
IoTエンジニアに求められるスキル
- IoTデバイスの操作
- ネットワーク
- データ分析
- プログラミング言語(Python, Javaなど)
IoTエンジニアの今後
あらゆる分野でリアルタイムでのデータ処理が求められる現代においては、IoTの重要性も高まっています。そのため、IoTエンジニアへのニーズは今後も増えていくと予想されるでしょう。
日本においてIoT産業はまだ発展途上であり、十分なスキルを持ったIoTエンジニアが不足しているのが現状です。また、年齢次第ではあるものの、未経験での求人もあるため、IoTエンジニアは今後も目指せる職業だといえるでしょう。
当サイトでは、これからIoTエンジニアを目指す方に向けた採用情報も掲載しています。
まとめ
エッジコンピューティングはIoTを支える重要な技術であり、スマート工場や自動運転といったデータのリアルタイム処理が求められる場面で活躍します。
一方でエッジコンピューティングを導入する際には、エッジデバイスのセキュリティ管理やコストに注意が必要です。
エッジコンピューティングを担う人材であるIoTエンジニアには多様なスキルが求められますが、IoTの市場規模が拡大していく中で今後有望な職業となるでしょう。
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