昨今は「リスキリング」という言葉に注目が集まり、多くの企業で導入されつつあります。企業における従業員のリスキリングは高く評価され、今後も重要な施策になると考えられます。この記事では、リスキリングとは何か、導入する際のメリット・課題・注意点・導入ステップなどについて解説します。また、企業の事例も紹介していますので、リスキリングを実施する際の参考にしてください。
人材活用に関するお役立ち情報をお送りいたします。
Index
リスキリングとは何か?
リスキリングとは、時代の流れとともに変遷する働き方に対応できるように、新しい知識・スキルを習得することを指します。新しい知識・スキルを身につけることで、顧客ニーズに対応しやすくなったり、自分の仕事に自信を持てるようになったりといった、さまざまなメリットを得られます。
リスキリングとよく比較される用語
リスキリングには、比較される用語がいくつかあります。以下では、リスキリングとよく比較される用語とその違いを解説します。
リカレント教育
リカレント教育とは、従業員が自主的に知識やスキルを習得することを意味します。日本語では「学び直し」とも呼ばれ、社会人になってから修学などによって勉強することを指します。リスキリングは基本的に仕事と並行しながら実施されますが、リカレント教育は一度仕事を離れて学びに集中し、再度就職・復職するといった違いがあります。
アンラーニング
アンラーニングとは、知識・スキルを取捨選択して学ぶ方法を意味します。アンラーニングは「学習棄却」とも呼ばれ、新しいことを学びつつ、同時に不要な知識・スキルを捨てていく特徴があります。捨てることが目的となるアンラーニングに対して、習得をメインに実施するのがリスキリングです。
社内研修
社内研修とは、自社の従業員が講師となって実施される研修のことを指します。役員や上司などが講師となり、自社ならではのノウハウや仕事の方法を伝えます。新入社員研修・コンプライアンス研修・中堅社員研修・管理職研修・若手社員研修など、さまざまな研修内容に分類される点が特徴です。社内研修は、リスキリングを行うための1つの手法です。
しかし、リスキリングを社内研修によって実施する企業は、現時点では少ない傾向にあります。
アップスキリング
アップスキリングとは、専門知識を学習し、すでに保有している能力をさらに向上させる方法です。従業員が対応できる業務範囲が広がることや、キャリアプランの構築などにつながるメリットがあります。ある程度スキルを持つ人材に対して実施される点が、リスキリングとの違いです。
アウトスキリング
アウトスキリングとは、転職などで会社を離れる従業員に対して、その後に役立つ有効なスキルの習得をサポートする施策です。レイオフ(一時解雇)や人員整理を実施する際に、従業員が転職に困らないようにサポートすることが目的になるため、自社への貢献を目指すリスキリングとは根本的に異なります。
リスキリングが注目されている背景
リスキリングが注目されている背景には、企業のDXと従業員のスキル不足が問題視されている点があります。DXによる職場環境や働き方の変化は、世界的に必要とされているプロセスです。しかし、DXを有効化するには、新しい環境に適応して活用できる人材が不可欠です。そこでリスキリングを実施し、新しい時代に対応できる人材を育成することに注目が集まっています。
DX・GXなどの事業・産業改革
企業のDXとGX推進は、徐々に進行しているのが現状です。しかし、DXに精通しているデジタル人材は不足していることから、その環境を生かせない企業が多い点が課題となっています。そこでリスキリングに必要な地盤を確立し、DX・GXなどの事業・産業改革にとって欠かせない人材の確保が必要とされています。
労働人口減少
国内の労働人口は減少傾向にあり、今後はさらに人手不足が深刻化する可能性があります。そのためDXによる職場や事業内容の改革と、リスキリングによるデジタル人材の育成が同時に必要とされています。限られた人材の知識・スキルを高めて、自社に貢献できる人材を増やすことがリスキリングに期待されています。
人的資本経営へのシフト
人的資本経営とは、人材を企業の資本として捉えて、能力を向上させることで企業価値を高める考え方のことです。従来の日本企業では人材を「資源」として捉えていましたが、近年は人的資本経営に注目が集まり、結果的に知識・スキルアップにつながるリスキリングの導入が増えています。
世界で進むリスキリング革命
リスキリングによる革命は国内だけでなく、世界規模で実施されています。例えばAmazonは2025年までに、米アマゾンの従業員10万人をリスキリングすると発表しています。また、ダボス会議(世界経済会議)では、2018年から3年連続で「リスキル革命」のセッションを導入し、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言しました。
国内でも住友商事・三菱商事・丸紅などの企業が、積極的にリスキリングの導入を進めています。
リスキリング支援に注力する日本政府
日本政府も、リスキリングの重要性に注目しています。経済産業省では2021年より、「デジタル時代の人材育成に関する検討会」を実施してデジタル人材の育成における施策を考案しています。「人材開発支援助成金」などを提供して、企業のリスキリングをサポートする環境が整いつつあります。
また、岸田内閣総理大臣は2022年10月の所信表明演説で、リスキリング支援策の整備を2023年6月までに取りまとめ、5年間で1兆円の公的支援を投入すると表明しています。
企業が実施すべきリスキリング
DX推進のための人材育成と、多様化する働き方に適応する人材教育のために、企業はリスキリングを実施すべきだといえます。例えば企業はリスキリングを通して、以下のスキルの習得を従業員に促すことが重要だと考えられます。
- プログラミングスキル
- マーケティングスキル
- IT、DX、AIに関するスキル
- 語学スキル
- データ分析、統計解析スキル
- マネジメントスキル
など
自社の状況や事業内容に合わせて、リスキリングで習得すべきスキルを明確にすることが重要です。
企業におけるリスキリングのメリット
企業がリスキリングを実施することには、多くのメリットがあります。以下では、企業からみたリスキリングのメリットを解説します。
DXを推進できる
リスキリングによって社内でのDX人材育成が可能となり、DXが実現できる点がメリットです。少ないDX人材を外部から雇用するよりも、従業員教育によるDX人材確保の方が行いやすく、採用コストも抑えられます。
企業価値が向上する
人的資本経営視点でみると、リスキリングによる従業員の成長は、企業価値の向上につながります。リスキリングによって人材ポートフォリオが構築できるため、最適な人材配置とキャリア支援が可能となります。人材ポートフォリオは企業に足りない人材を明確にし、課題を解決するためのきっかけとなり得るため、企業価値向上につながります。
従業員の業務意欲が向上する
リスキリングは、通常業務を行いながら新たなスキルを獲得できる手法です。新たな業務を担当できるようにもなるため、従業員の仕事に対する満足度が高まり、業務意欲の向上につながります。業務意欲の向上は高い成果を引き出し、従業員に自信をつける結果にもなり得ます。
業務効率が向上する
DXの推進、従業員のスキル向上、業務意欲の向上などにより、企業全体の業務効率が向上する点もメリットです。時間をよりメイン業務に集中させることができ、さらに生産性やアウトプットの質を高められます。
企業の成長を促進できる
リスキリングによって新しい知識・スキルを獲得することで、斬新なアイデアが創出される可能性が高まります。新規事業の開拓・事業拡大などにより、企業の成長を促進できる点もメリットです。
企業におけるリスキリングの課題
企業がリスキリングを実施する際には、課題となり得る要素の把握も重要です。以下では、企業におけるリスキリングの課題について解説します。
リスキリングのための業務の調整が難しい
リスキリングは研修を受けながら通常業務を進めなければならないため、従業員の負担が増加する可能性があります。あまりにハードなスケジュールになると、仕事や学びに対するモチベーションが低下するリスクが懸念されます。リスキリングを行う際には、従業員のモチベーションを継続させるための施策を考案することがポイントです。
リスキリングのための研修準備が負担となる
リスキリングを外部に委託する場合には、相応のコストがかかります。一方で、コスト削減のために社内人材を使って研修する場合には、講師として指名された従業員の負担が増加します。リスキリングすべき科目と参考書などの選定も必要となるため、社内のみでリスキリングを実行することは難しいと考えられます。
そのため事前に外部に委託するコストを計算し、具体的なプロジェクトを立ち上げることがポイントです。
従業員のキャリアアップによる転職の恐れ
リスキリングによってスキルアップを実現した従業員は、その能力を生かして転職する可能性があります。人材流出を起こさないために、自社に留まるメリットをきちんと提示しておくことが必要です。
コストがかかる
リスキリングには初期投資にかかるコスト、継続するためのコストなど、さまざまなコストが必要です。コストの見積もりを誤ると、リスキリングの成果が出る前にプロジェクトが中断するといった結果にもなりかねません。
時間がかかる
リスキリングを行うためには、ある程度の準備期間が必要です。すぐにスタートできるわけではない点も、リスキリングにおける課題となり得ます。リスキリングは一回限りではなく、継続して実施する必要があるため、その点を考慮した上で環境整備を進めることが重要です。
従業員のやる気を維持することが難しい
従業員にとって興味のないスキル・苦手なスキルの学習は、モチベーション維持が困難となります。従業員が必要とするスキルを把握して、学習モチベーションが向上しやすい仕組みをつくることも必要です。
ミドルシニア層の学習意欲向上が難しい
新たな「学び」から遠ざかっているミドルシニア層に、リスキリングを勧めることは難しいです。しかし、高齢者雇用安定法改正により70歳までの就業機会確保が求められる現代において、ミドルシニア層にもリスキリングは必要となっています。リスキリングの重要性や必要性を、いかにミドルシニア層に理解してもらうかも課題です。
リスキリングが効果を発揮するかどうかわからない
リスキリングによって学習を実施しても、成果が出ない可能性があります。せっかく学んだ知識・スキルも、業務内容や配属された部署次第では生かせないケースも懸念されます。リスキリングを実施する際には、学んだあとのフォローまで企業が実践する必要があります。
リスキリング導入のための5ステップ
リスキリング導入のためには、「5つのステップ」が重要となります。以下では、リスキリング導入における5ステップについて解説します。
1.現状の調査
まずは社内の現状調査を実施し、リスキリングの計画を立案します。従業員ごとにスキルの過不足をチェックし、必要なスキルをピックアップすることが重要です。
2.リスキリングすべきプログラムの決定
現状で不足しているスキル、今後の事業に必要となるスキルなどのなかから、優先順位をつけます。リスキリングによって習得すべきスキルを明確にすることで、具体的な育成プログラムの決定につながります。
3.リスキリングの実施方法の検討
リスキリングの計画が決定したら、具体的な実施方法を検討します。例えば「講師を内部で調達できるか、外部に委託するか」「教材をどのように選定するか」などを考えます。オンライン・eラーニング・通信講座・社会人大学の活用など、あらゆる手段から実践するものを選びます。
4.リスキリングの実施
実施方法を決定したら、リスキリングを開始します。リスキリングの最中も積極的に従業員と接し、問題がないか確認することが重要です。課題や悩みが発生している場合には、企業側からアプローチして解決を目指します。従業員にすべてを任せるのではなく、協力関係を築くことがポイントです。
5.スキル活用の場の提供と効果検証
リスキリングで習得した新しい知識・スキルを実践できる場を提供し、効果を検証します。スキルと無関係の仕事を任せると、従業員はリスキリングの効果を実感できず、業務へのモチベーションが低下する恐れがあります。また、リスキリングについて従業員にアンケートなどを取り、改善策の考案なども必要です。
企業のリスキリング導入事例5選
リスキリングを導入している企業は、年々増加しています。以下では、実際にリスキリングを導入した企業の事例を紹介します。
KDDI株式会社
通信業界の大手であるKDDI株式会社は、DX人材を育成する社内大学「KDDI DX University」を設立しました。DXに特化した社内大学を展開することで、必要な知識・スキルを体系立てて学べる点が特徴です。研修コンテンツは最新化を進め、そのときに最適なものを活用できるように備えています。
実際に研修を受講した従業員からは、「自身のDX実現につながった」といった声も上がっており、実際の業務にも生かせています。
-
※
-
※
-
※
-
※
-
※
ヤフー株式会社
Web業界の大手ヤフー株式会社は、ZHDの企業内大学「Zアカデミア」に、AI人材を育成するコミュニティ「Z AIアカデミア」を発足しました。各事業をAIによって成長させることを目的に、5年間で5,000億円の投資および、AI活用に携わる国内外のエンジニアを5,000名増員する計画を立てています。
AI分野の重要性を考慮し、今後に備えたリスキリング環境を構築している事例です。具体的には、AI技術のアルゴリズム、ビジネスへの利活用事例を紹介するなど、グループの交流を通して、参加者の知識の向上を図っています。
株式会社日立製作所
Sler業界でも、株式会社日立製作所が積極的にリスキリングの導入を実施しています。「リスキリング4のステップ」「リスキリング8のキーファクター」を設定し、これからのDX時代に必要な環境を整備しています。リスキリングによるスキル獲得後の職務と仕事がどう変わるかを具体的に示し、従業員の意欲向上に努めている点が特徴です。
また、AIを活用した従業員のリスキングを促すための教育システム「学習体験プラットフォーム」も実装しており、現在約3万人に利用されています。
株式会社三菱UFJ銀行
株式会社三菱UFJ銀行は、従業員が自身のキャリアについて考える「自律的キャリア形成」と、その実現に必要な「成長と挑戦」を支援しています。デジタル人材の育成にも力を入れていて、育成プログラムの提供や、従業員のデジタルリテラシー向上につながる外部資格取得などを基準とする、「デジタルスキル認定制度」の導入を実践しています。
全従業員にDX教育を施すことで、業務効率化や課題解決を図る環境を目指しています。
JFEスチール株式会社
鉄鋼業界でもJFEスチール株式会社が、リスキリングに取り組んでいます。2014年から育成プログラムの構築をスタートし、データサイエンティストおよびその候補となる人材を、習熟度にごとに4階層にわけて育成する方法を実践しています。2020年度末時点で350人のデータサイエンティスト育成に成功し、2024年度末には600人への増員を目指しています。
リスキリングに取り組むための3つのポイント
リスキリングに取り組むためには、いくつかのポイントを把握することが重要です。以下では、リスキリングに取り組むための3つのポイントについて解説します。
従業員にリスキリングの必要性を理解してもらう
リスキリングの実践時には、経営戦略の一環として考案し、経営層が従業員にリスキリングの必要性を説明して、理解を求めることが重要です。学習を勤務時間内に設定するなど、従業員を納得させられる方針を固めた上で計画を実行することがポイントです。
学習体制を整える
基本となる学習体制および実施におけるプログラムを選定し、検討を重ねます。従業員が自ら取り組みたくなる学習体制を導入することで、モチベーション継続などのメリットに期待できます。
習得したスキルを実践できる環境を整備する
実際に活用できる場をつくることで、リスキリング後の従業員のモチベーションも高められます。「学んだ能力を生かせない」といった不服をなくし、スキルへの評価を正しく実施して、報酬などを設定します。
まとめ
企業にとって従業員の成長を促すリスキリングは、今後も重要な施策になると想定されます。今のうちからリスキリングに必要な環境を整備し、スムーズに学びが行える仕組みを構築することがポイントです。この機会にリスキリングの基本や導入のステップを確認し、具体的なプロジェクトを考案してみてはいかがでしょうか。
リスキリングの実施時には、「AKKODiS」の研修サービスの導入がおすすめです。DX・デジタル人材育成はもちろん、専門技術やカスタマイズ研修まで対応しています。費用の40%以上をカバーする「人材開発支援助成金」の申請も代行できるため、コストを抑えつつリスキリングを実施できます。まずは「AKKODiS」の研修サービスについての詳細を、ぜひお気軽にお問い合わせください。
関連サービス
研修サービス
IT・研究開発分野の技術研修とビジネス研修を提供しています。
目的や技術力に応じてカスタマイズすることも可能です。新人研修や人材開発トレーニングなど、さまざまな研修の一環としてご利用ください。