リスキリングの罠 ~事業と組織への投資対効果を検証~

リスキリングの罠 ~事業と組織への投資対効果を検証~

本調査のサマリ

 

  • 調査対象企業のうち、全体の約8割超(82.8%)が、リスキリング施策の実施について「実施したいが、見通しは立っていない」「実施予定はない」と回答。さらに、全体の約5割以上(54.3%)が「実施予定はない」と回答し、企業・組織での対策優先度が低い認識である現状。
  • リスキリング施策を実施している企業のうち、約5割(48.3%)が「(リスキリング施策実施の)年間の予算規模は100万円未満」であると回答。特に300名以下の企業に関しては14社中11社(78.5%)の割合で予算規模100万円未満との回答があり、潤沢な予算があるとはいえない現状。
  • リスキリング施策を実施していない企業は、施策が進まない理由として、約5割が「ノウハウがない(44.8%)」「費用対効果が見合わない,見込めない(20.1%)」「必要性を感じない(23.4%)」と回答。リスキリングのメリットや効果を理解できていない企業や、社内の体制や制度づくりのノウハウがない企業が多い現状。
  • リスキリング施策の領域として重要視されているのは「DX」「AI」「ITリテラシー」などが上位を占める結果に。多くの企業・組織がデジタル領域に関心を持っている。
  • リスキリング施策を実施している企業が効果を実感しているのは主にDX領域。なかでも業務効率化を実現できたという声が多い。
  • リスキリング施策を実施する上での課題は、主に「評価制度との連動」「シニア層へのアプローチ」「評価・登用の仕組みづくり」の3つ。リスキリングに取り組む従業員が、キャリアアップや昇進、習得したスキルやノウハウを生かせるポジションへの登用を期待できる環境整備を進めることも企業の役割といえる。

人材活用に関するお役立ち情報をお送りいたします。

前提:日本のリスキリング推進状況

海外との比較を交えながら、日本のDXの現状に対する理解を深めていきたい。

海外と比較した日本のDXの現状

2022年、スイスのIMD(国際経営開発研究所)が発表した「世界のデジタル競争力ランキング」では、1位デンマーク、2位アメリカ、3位スウェーデンで、日本が29位であった。前年の28位より1つランクダウンし、過去最低の結果である。

この調査は、調査対象の63カ国・地域のデジタル技術の利活用能力を「知識」「技術」「未来への対応」の項目で評価したものだ。シンガポールや韓国が10位圏内に入り、2018年に30位だった中国が17位にランクインするなど、同じアジア圏の国々が大きく躍進した。

一方で日本は、2020年の27位、2021年の28位、2022年の29位と低迷した状況が続いている。特に、「国際経験」(知識)と「ビッグデータ活用・分析」「ビジネス上の俊敏性」(未来への対応)では、調査対象国・地域のなかで最下位であった。

この調査結果から、日本国内のIT人材不足や、デジタル技術・スキルの不足など、DXの遅れが浮き彫りとなった。

日本とアメリカの違い|DXの目的・経営層の関与

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の調査結果をもとに、アメリカと日本の企業におけるDXの現状を比較していこう。

DXの取り組み状況に関するアンケートでは、「(DXを)行っていない」「DXを知らない」「分からない」と回答した企業の割合が、アメリカでは3.6%であるのに対し、日本では33.4%であった。アメリカは、全体的に日本よりもDXが進んでいることがわかる。

また、両国ではDXの目的も異なる。DX推進の目的に関するアンケートでは、アメリカは「新規事業開拓や事業拡大を目的とする」傾向が強い一方で、日本では「業務改善や既存業務の収益向上を目的とする」傾向が見られた。

予算の使い道にも差がある。アメリカでは、変化する市場や顧客ニーズの把握や迅速な対応など、「顧客体験の向上につながるような施策」に予算が割かれる傾向がある。一方の日本は、「働き方改革の実践や業務効率化など」に予算を割くケースが多く見受けられた。

さらに、CEO(最高経営責任者)のDX推進への関わり方にも差が出ている。DXにおける経営層の関与状況に関して、「DXの戦略策定や実行に経営陣自ら関わっている」と回答した割合はアメリカが54.3%、日本が35.8%であった。

このように、DXの推進目的や最終的なゴール、予算の使い道、経営層の関与などさまざまな面で両国に違いがあることがわかる。

日本国内におけるデジタル化の推進状況

改めて視線を国内企業でのDX推進の状況について見ていきたい。

総務省の発表によると、「DX推進を社内で進めているか?」という質問に対し、約6割の企業が「実施していない、今後も予定なし」と回答した。

企業規模別にみると、大企業では約4割、中小企業では約7割がDX化に着手できていない状態とのことで、特に中小企業におけるデジタル化への意識はかなり低いものと言える。

地域別に取り組み状況を参照してもその意識の差は明らかだ。それぞれのエリアでのDX推進の取り組み状況をみると、東京23区>政令指定都市>中核市>その他の市町村の順となっている。加えて、どの区分においても「DX推進を実施していない、今後実施を検討」と回答している割合は15-20%にとどまっており、今後の見通しに対しても明確なプランが存在しない状況である。

大都市圏または大企業群に関しては半数程度がデジタル化に前向き/着手できている一方で、地方都市圏または中小企業群に関してはデジタル化への対応/認識ともに遅れているのが現状だ。

日本の現状|高齢化によるDX推進の受容性低下

世界的に見ても、日本は特に高齢化が進んでいる。これも、DX推進の遅れに大きく関係している。

若い世代では、IT技術や新しい取り組みへの抵抗がなく、一度認知されてしまえば普及や浸透のスピードはとても速い。一方でシニア世代は、今までのやり方を変えることに抵抗があったり、面倒に感じたりする人が多い。

人口の約3割が65歳以上のシニア層、また2021年時点で就業者総数における高齢就業者の割合が13.5%と過去最高の数値となっていることからも、日本ではDX推進の受容性が低いといえる。

日本におけるDX推進の阻害要因

上述の調査結果や統計が示すように、日本では諸外国に比べてDXへの取り組みが進んでいない。なぜ、日本ではDXが進まないのか。日本のDX推進を阻害する要因は大きく6つある。

1.DXに対する理解が足りない

日本では、DXを「業務効率化や生産性向上」の文脈で捉えている企業が多い。また、経営者・従業員ともに、DXに対する共通認識がない企業も多く見られる。DXそのものを理解できていなければ、目標や目指すべきゴールを定められず、具体的な方策も思い付かないだろう。

2.経営陣が積極的に関与していない

DX推進は、経営陣・経営層が主導して行う必要がある。しかし日本では、DXに対する理解が足りないこともあり、経営陣・経営層がDXに関与せず、現場任せにしているケースが多い。DXは短期的+部分最適ではなく、長期的+全体最適で推進するべき取り組みであるため、高い視座からメッセージを発信できる経営陣の関与は不可欠といえる。

3.アナログな文化や価値観が根強く残っている

日本では、紙の書類や押印による承認といったアナログな文化が残っている企業が依然として多い。コロナ禍でリモートワークが浸透したとはいえ、アナログな処理に価値を認める文化は根強く残っている。

4.システム構築をベンダー任せにしている

DX推進には、自社の業務を深く理解した上で、それに適したシステムを構築・運用する必要がある。しかし日本では、システム構築・運用の多くをベンダーに任せている企業が多いため、自社の業務と運用しているシステムの両方について深く理解している人材が社内に不足しやすい。

5.既存システムがブラックボックス化している

日本ではレガシーシステムが多く残っており、海外に比べて最新技術の導入やデータの利活用が遅れている。レガシーシステムとは、老朽化や複雑化などの課題を抱えた既存システムのこと。レガシーシステムは、開発者の退職・交替や度重なる仕様変更などでブラックボックス化しやすく、連携やメンテナンスが困難である。そのため、新たなシステムやアプリケーションを積極導入・利活用するDXの妨げとなっている。

6.IT人材・DX人材が少ない

日本ではIT人材・DX人材の枯渇が危惧され、育成自体も追いついていない。また、IT人材・DX人材は、スキルやノウハウさえ持っていれば場所を問わず活躍できるため、流動性が高い。その結果、DX推進に必要な人材を十分に確保できている企業は少なく、DX推進の足かせとなっている。

DX実現に向けた3つのフェーズ

DX実現には、大きく次の3つのフェーズが必要となる。

  • フェーズ1:デジタイゼーション(Digitization)
  • フェーズ2:デジタライゼーション(Digitalization)
  • フェーズ3:デジタル・トランスフォーメーション(DX)

各フェーズの定義ついて詳しく記載をすると、フェーズ1のデジタイゼーション(Digitization)は「アナログ・物理データのデジタルデータ化」、フェーズ2のデジタライゼーション(Digitalization)は「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」を指す。最終段階であるデジタル・トランスフォーメーション(DX)は「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」を指し、デジタル技術を用いて“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革/創造することをいう。

DX推進は、自社の現状に合わせて、段階的に進めていく必要がある。自社の現状を把握せずに進めると、取り組みがうまくいかず、「目的と手段がすり替わる」「間違ったゴールに向かっている」といった失敗につながるからだ。

失敗を回避するために、ここからは経済産業者の『DXレポート2中間取りまとめ(概要)』を参照しながら各フェーズの理解を深め、自社の現状把握に役立てていただきたい。

【フェーズ1:デジタイゼーション(Digitization)】

デジタイゼーションとは「アナログ・物理データのデジタル化」である。デジタル技術の導入により、アナログ情報をデジタル情報に変換し、コスト削減や業務効率化を図ることだ。

具体的には、伝票や申請書などの紙で管理していたデータをExcelで管理する、新聞やチラシといったアナログ広告をオンライン広告に切り替える、電子印鑑の導入や現行システムのクラウド移行、などがある。こうした試みから得られる効果として、郵送や印刷にかかるコスト削減、業務や顧客データの管理に費やしていたスタッフの時間・コストの圧縮が挙げられる。

また、オンライン会議ツールの導入により、オフィス以外の場所にいる社員や、遠隔地の顧客との打ち合わせが可能になることもデジタイゼーションだ。会議のために出社・出張する必要がなくなり、移動に費やしていた時間とコストを別のタスクに充てられるようになる。働き方改革や、自然災害に対するBCP(事業継続計画)にも貢献する。

【フェーズ2:デジタライゼーション(Digitalization)】

デジタライゼーションとは「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」である。デジタル技術の導入により、業務フロー・製造プロセスをデジタル情報に変換し、効率化・最適化させることだ。具体的には、手入力していたデータをシステムで自動的に収集する、RPAで作業を自動化する、などの取り組みが挙げられる。

例えばRPAは、人間が行う作業をロボットが代わりに処理して自動化を図るため、ミス削減や時間短縮、人手不足解消といった効果が期待できる。そのほか、チャットボットを導入し、顧客対応の効率化を実現した事例もある。

【【フェーズ3:デジタル・トランスフォーメーション(DX)】

DXとは「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出“のための事業やビジネスモデルの変革」である。簡潔にいえば、組織全体のデジタル化だ。デジタル技術の活用を通じて、ビジネスモデルや組織そのものを変革させ、新しい付加価値を生み出すことをいう。

フェーズ2のデジタライゼーションでは個別で業務プロセスをデジタル化していたが、DXでは組織全体でデジタル化を行う。そのためDXでは、社内システムを内製化して、受注・製造・販売・ユーザーサポートまでのあらゆるデータを統合して分析できるようにし、顧客満足度を高められる新しいサービスや事業を生み出す、といった効果が期待できる。

DXは単なる業務改善ではない。部門ごと個別に行われていたデジタル化の取り組みを全体として統合し、ビジネスモデルと一体化する重要なフェーズといえる。

調査の背景

ビジネス環境の変化やビジネスモデルのライフサイクル短期化に伴い、企業は新たなスキルを持つ人材を求めている。しかし、労働人口は減少する一方だ。そこで、既存の従業員に新たなスキルを学ばせる「リスキリング」が注目されている。

また、近年のビジネスシーンでは、デジタル技術の進化やITの活用などが進んでおり、DXに対応するためのスキルやノウハウの需要が高まっている。そしてDX推進には、デジタル技術を活用し、業務や組織を変革するためのスキルやノウハウが必要だ。

このような背景から、特にDX推進・IT活用を遂行するにあたって学び直しの機会を取る企業も増えつつある。

AKKODiSでは、DX推進やDX戦略策定のコンサルティング、DX時代に必要な「デジタル化」と「課題解決」を結びつけられる人材の育成やリスキリングをサポートしている。DX推進における課題や悩みを抱える企業に対して、課題解決のヒントを提示することを目的に、定量調査を実施した。

リスキリングが注目されている理由

調査結果をお伝えする前に、なぜ「リスキリング」が注目されているのか、その理由を詳しく見ていきたい。

リスキリングは世界規模で注目されている

2020年、世界経済フォーラムの年次総会(通称、ダボス会議)で、第4次産業革命に伴う技術変化に対応するために、「2030年までに全世界で10億人のリスキリング(学び直し)を行うこと」が提唱された。

アメリカに本拠地を置く世界的大企業は、従業員10万人のリスキリングを発表。日本国内だけではなく、世界規模で「リスキリング」が注目されている。

DX人材の不足

DX推進には、デジタルやITなどに関する専門的なスキルやノウハウが必要である。しかし、多くの日本企業では、それらを備えたDX人材が不足しているため、DX推進による十分な効果を得られていないのが現状だ。そのため、DX人材の育成は差し迫った課題であり、「リスキリング」に期待が寄せられている。

日本政府による支援

技術革新が急速に進む現代において、従来のスキルやノウハウだけでは、将来の社会で活躍することが難しくなる可能性が高い。そのため、日本政府は、個人が将来の社会で活躍するために必要なスキルやノウハウを習得できる「リスキリング」を支援する施策を実施している。

岸田内閣総理大臣は、2022年10月の第二百十回国会の所信表明演説において、リスキリングの支援策の整備を2023年6月までに取りまとめることや、リスキリングに対する公的支援として5年間で1兆円を投入することを表明した。

調査結果

ここからは、定量調査の結果に基づき、リスキリング施策の実施状況や企業が実感している効果、リスキリング施策を推進する上で直面した課題などを順に確認していく。

前提

今回、計186社の企業に対して調査を実施した。調査対象企業の内訳は、従業員数20名以下が27社、21〜300名が70社、300名以上が89社である(集計1)。

集計1

1.リスキリング施策の実施状況調査

1-1.ほとんどの企業が未実施、実施の予定が立っていない

調査対象企業(N=186)に、リスキリング施策の実施状況を調査したところ、「はい(実施している)」と回答したのが全体の2割を下回る17.2%という結果となった(集計2)。

集計2

「いいえ(実施していない)」と回答した企業に対し、リスキリング施策の実施予定について調査したところ、1社のみが「実施予定で、スケジュールも決まっている」と回答。それ以外は「実施したいが、見通しは立っていない」「実施予定はない」という結果となった(集計③)。

全体の8割以上の企業でリスキリング施策が未実施であり、実施の予定が立っていないことが明らかとなった。

集計3

1-2.リスキリング施策を実施する企業の予算規模は年間100万円未満が約5割

リスキリング施策を実施している企業(N=32)に、年間の予算規模に関して調査したところ、「100万円未満」が約5割(48.3%)を占める結果となった(集計4)。

次いで、「3000万円以上」「500万円〜1000万円未満」「100万円〜300万円未満」の順で回答が続いたが、それぞれ全体の1割前後であった。

なかでも、従業員300名以下の企業に関しては14社中11社(78.5%)の割合で予算規模100万円未満との回答があり、特に中小規模の企業において予算規模の小ささが目立つ傾向となった。

集計4

1-3.リスキリング施策が進まない理由は「ノウハウがない」「費用対効果・必要性を感じない」がそれぞれ約5割を占める

リスキリング施策を実施していない・できていない企業(N=154)に、リスキリング施策が進まない理由を調査したところ、「ノウハウがない」が44.8%、「費用対効果が見合わない,見込めない(20.1%)」「必要性を感じない(23.4%)」という結果となった(集計5)。

「予算の都合がつかない」という回答が相対的に少ないことから、リスキリング施策が進まない根本原因は、他の施策と比べ企業・組織におけるリスキリング施策の優先度が低い認識である、あるいは、ノウハウがなくリスキリング施策を実施するための制度が整っていないことだと考えられる。

集計5

1-4.リスキリング施策の領域として重要視されているのは「DX」「AI」「ITリテラシー」などデジタル領域が多い

リスキリング施策を実施している企業(N=32)に、リスキリング施策のなかで特に注力している領域について調査したところ、「DX」「AI」「ITリテラシー」などが上位を占め、デジタル領域が多い結果となった(集計6)。

近年のデジタル技術の進展により、ITに関するスキルやノウハウの需要が高まっている。DX推進の観点からも、リスキリングの必要性は今後ますます高まると予想される。

集計6

1-5.リスキリング施策実施企業の約5割が効果を実感しているものの、効果検証できていないケースが多い

リスキリング施策を実施している企業(N=32)において、約5割(51.6%)が「検証の上施策の効果を感じている」「効果検証は出来ていない、肌感では変化を感じている」と回答。半数以上が効果を実感していることがわかった(集計)。

一方で、ほぼ同数が「効果はまだ出ていない」「効果検証は出来ていない、肌感では変化を感じていない」と回答しており、リスキリング施策効果の良し悪しについて反応は半々という結果に。

さらに、効果の良し悪しにかかわらず、十分に効果を検証できていないケースが多いことも事実である。効果検証が不十分では、リスキリング施策の改善や見直しを行えず、効果的な施策につなげられないリスクがある点には注意したい。

集計7

1-6.リスキリング施策実施企業が特に効果を実感しているのはDX領域であり、業務効率化が実現できたという声が多い

リスキリング施策企業(N=32)に対し、施策実施後に実感したポジティブな変化について調査したところ、DX領域の、特に業務効率化の面で効果を実感している企業が多いことが明らかとなった。

具体的な声は、次のようなものだ。

  • 「紙媒体ではなく、電子媒体でのコミュニケーションが増え、ペーパーレスにつながっている。」
  • 「メンバーのコミュニケーションの取り方が変わりツールを変更するきっかけにもなった。」

2.DX推進におけるリスキリングとその課題

2-1.DX推進における課題

調査対象企業のうち、リスキリング施策を実施している企業(N=32)は、施策実施にあたっての苦労・課題として「評価システムとの連動」を挙げている。

具体的には、「過去の評価との連動」「リスキリングの内容と効果、実施後の評価のバランス」「評価システムの構築」などである。

例えば、リスキリングの成果が評価システムに反映されないと、従業員はリスキリングに取り組む意欲が低下しやすくなる。また、リスキリングの成果を評価するための制度が整っていなければ、企業はリスキリング施策を実施する上での判断が難しくなるおそれがある。

リスキリング施策の効果を高め、継続的に取り組んでいくためには、リスキリングの成果を評価システムと連動させることが重要だ。

2-2.シニア層へのアプローチ

「シニア層へのアプローチ」に対して苦労・課題を抱えていることも明らかとなった。

「シニア層の意識改革がなかなか進まない」「シニア社員の取り組みは望めない事が多い。『昔は良かった』という話もよく聞く」といったアンケートの声からも、「シニア層のモチベーションアップ」がリスキリング施策を左右する重要な課題となっていることがわかる。

もちろん全てのシニア層に当てはまるわけではないが、シニア層のなかには、キャリアアップや昇進に大きな期待をしておらず、新しいスキルやノウハウを身につける意欲が低い者が一定数いることは確かだ。

2-3.評価・登用の仕組みづくり

リスキリング施策を実施している企業(N=32)に、リスキリング施策によってスキルアップした人材を評価・登用する仕組みは整備できているかを尋ねたところ、整備できている企業は半数に満たない、41.9%という結果となった。

リスキリングによって得られたスキルやノウハウを評価するためには、そのスキルやノウハウを定量化できる指標や評価基準を明確化する必要がある。しかし、リスキリングの領域は多岐にわたるため、全てのスキルやノウハウを定量化することは困難だ。評価基準を明確化しても、それを客観的に評価することは難しい。

また、企業の事業内容や組織構造、従業員数などによっては、リスキリングによって得られたスキルやノウハウを生せるポジションを用意できない場合もある。

しかし、従業員のモチベーションを高め、人材流出を防止するためにも、評価・登用の仕組みづくりはリスキリング施策を実施する上で欠かせないことを念頭に置いておきたい。

まとめ

調査の結果、ほとんどの企業が「ノウハウがない」「費用対効果が見合わない,見込めない」「必要性を感じない」という理由から、リスキリング施策を未実施であることが明らかとなった。

一方のリスキリング施策実施企業においては、DX領域における業務効率化で一定の効果を実感しているものの、正確な効果検証までは実施できていない。

そして、多くの企業が、リスキリング施策を通じて得られた成果と評価システムの連動に課題を抱えており、シニア層の活用や評価・登用の仕組みづくりに苦戦していることがわかった。

提言①リスキリング施策成功に向け

リスキリング施策を成功させるためには、リスキリングによって得られたスキルやノウハウを正しく評価に反映し、適切なポジションに登用する仕組みづくりが大切である。その環境整備を行うのが、企業の役割だ。裏を返せば、評価・登用の仕組みがないリスキリング施策は、リスキリング本来の効果を得られないため、一時的な取り組みとして形骸化し、持続的な事業経営・組織形成にはつながらない。

しかし、多くの企業で評価・登用の仕組みを構築できていないのが現状である。その理由は大きく3つあると考えられる。

1つ目は、「リスキリングの成果を定量化することが難しいから」だ。リスキリングの成果は、スキルやノウハウの習得だけではなく、業務効率化や顧客満足度の向上など、さまざまな形で表れるため定量化が難しい。定量化・数値化できないものは、客観的な指標にしにくく、評価と連動させにくい。

2つ目は、「シニア層の特性やニーズを理解した上で、リスキリング施策を設計することが難しいから」だ。労働人口の減少が続く日本において、シニア層は重要な労働力だ。しかし、シニア層の一部は、キャリアアップや昇進に大きな期待をせず、スキルやノウハウの習得意欲が低い。時間とコストをかけて仕組みを構築しても、うまく機能しない可能性は否定できず、仕組みづくりの一歩を踏み出せない企業は多いだろう。

3つ目は、「リスキリングに関するノウハウを持ち合わせていないから」だ。リスキリングに関する評価・登用の仕組みは、一朝一夕で構築できるものではない。また、自社の状況や従業員のニーズに適したカリキュラムやプログラムの構築には、相当な時間と労力を割く必要がある。しかし、ノウハウを持ち合わせていないため、正しい仕組みづくりや適切な効果検証ができるとは限らない。

以上3つの理由から、多くの企業がリスキリングに関する評価・登用の仕組みづくりに躓くと考えられるが、企業にとって従業員の成長をもたらすリスキリングは今後も重要な施策となる。

将来を見据え、今のうちからリスキリングに必要な環境を整備し、リスキリングで得たスキルやノウハウを評価して適切なポジションに登用できる仕組みを構築することが大切だ。

提言②DX推進で投資対効果を高めるためのポイント

リスキリング施策の中でも関連性の高いDX推進の領域について、投資対効果を高めるためのポイントを補足として記載したい。

1.スモールスタートを意識する

「どれだけの効果が見込めるかわからないから、DX推進に踏み出せない」という企業は少なくない。

ところが、低予算かつ規模の小さな業務からDXを始めれば、リスクも予算も最小限に抑えられる。また、人員は少人数でよく、既存の経営スタイルを大幅に変更する必要もない。

スモールスタートを意識したDXであれば、規模が小さいためDXにより影響のある業務も識別しやすく、投資対効果を測定しやすくなる。

2.DXと相性の良い業務・領域からスタートする

DX推進の投資対効果を高めるには、デジタル技術を用いて効率化や自動化が容易な業務から取り組むとよい。代表的な業務には、バックオフィス業務やマーケティング情報のデータ管理・分析業務などがある。

例えば、バックオフィス業務は、事務・会計などの後方支援業務で「データを扱う機会が多い」「ルーティン作業が多い」という特徴があるため、デジタル技術を用いた自動化が容易で結果も出やすい。主なメリットに「作業の効率化」「ヒューマンエラーの防止」「人件費の削減」などがある。

3.目標やゴールを明確に設定する

DX推進の目的は、デジタル技術とデータの活用により、ビジネスモデルを変革させ、新たな企業価値を創出することにある。そのためには、まずDX推進によって何を成し遂げたいのか、目標やゴールを明確に設定する必要がある。

目標やゴールの設定では「数字を用いて、できるだけ具体的に設定する」ことが重要であり、DX推進に携わるすべての人員がいつでも確認できるように明文化しておく。これにより、DX推進の方向性が明確化されるとともに、進捗管理が容易となる。

AKKODiSのDX・デジタル人材育成研修サービスのご紹介

AKKODiSは、リスキリングに関する豊富なノウハウを有しており、リスキリングプログラムの開発・提供、伴走コンサルティングなど、さまざまなサービスを提供。これまでも数多くの支援実績がある。

リスキリング施策の成功を支援するパートナーとして、自社の現状把握からリスキリングの成果の定量化、自社従業員のニーズに適したカリキュラム策定、評価・登用の仕組みづくりなどのサポートが可能。「リスキリング施策を新規導入したいが何をすればよいかわからない」「導入済み施策を見直したい」など、リスキリングに関する悩みや課題がある場合は、ぜひAKKODiSへご相談ください。

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