
デジタル変革が進む新時代において、営業には販売や課題解決だけではない新しい在り方が求められます。顧客ビジネスの価値を共創できる、未来を切り拓く営業とは。西日本電信電話株式会社の米林敏幸氏とAKKODiSコンサルティング株式会社の森本直彦が「新しい営業による未来」を語り合いました。
変化する市場における営業の「役割」を再定義
森本直彦 [以下、森本] :デジタル変革の新時代において、私たちはこれまで以上に迅速かつ柔軟に対応する必要があります。変革の波に乗るためには、常に学び続け、進化し続ける姿勢が求められていると感じています。
米林敏幸氏 [以下、米林]そうですね。生成AIの浸透によりビジネスの在り方やコロナ禍を経たライフスタイルが変容し、5年前とは異なる、デジタル変革の新時代に突入してきていると実感しています。この節目は、ピンチにも大きなチャンスにもなりうると思いますが、これまで営業組織をリードしてきた森本さんは、この変革にどのように対応していくべきと捉えていますか。
森本:私はこれまで、製造から物流、メーカーや商社の営業、新規事業推進と、バリューチェーンとサプライチェーンを織り交ぜた経験でビジネスの根幹を学んできました。事業開発支援では、クリエイティブチームの編成やサービス戦略策定の経験が、現在のIOWN構想実現に向けた取り組みに役立っています。デジタル変革の時代においても、営業は“販売”や“課題解決”をするだけではなく“価値創造”をデザインしていく必要があります。

米林:なるほど。社内やパートナーとの連携を現場で多く体感した結果、ビジネスの全体像を俯瞰し、発揮すべき役割を意識した伴走支援が営業の機能を進化させたということですね。この点は、経営者やクライアントが求めるソリューションの真髄だと感じますが、何を心掛けていますか。
森本:「顧客中心の、売るモノ・サービスが何で、売り先がどこで、売り方をどうするか?」。この難しくシンプルなことが、いつもクリアであることです。その上で、自分達のアセットをどのようにデザインして伝えるか。社内外問わず、ステークホルダーとのリレーションを止めない、絶えず人脈形成を強化することも必要です。
米林:エネルギーに満ち溢れている森本さんの”企業秘密”を初めて聞くことができ、非常に納得しました。そして、とても高度な営業ですね。再解釈すると、ベースに①マーケティング戦略があり、顧客視点の②CXマインドをもって、③ダイレクトセールスと、④パートナー営業をマーケットインで改革していく。森本さんが推進してきたのは、この4つの機能が融合した営業ではないでしょうか。
森本:そのとおりです。私は「モノやサービスを売るのではなく、モノやサービスの本質をエネルギーとして伝えること」これこそが、ビジネスを成功に導く営業力だと思っています。米林さんがDX推進を支援する「LINKSPARK NAGOYA」という立場で、NTT西日本さんの営業について意識されている点はどのようなところでしょうか?
米林:私も営業からキャリアをスタートし、BPRや人事を経験した後、顧客体験(CX)の変革や新規ビジネスの開発に携わった経験から影響を受け、人のつながりから生まれる価値の共創を心がけています。
森本:ちなみに、どのような新規ビジネスだったのですか。
米林:AI・データを活用した社会課題解決型のビジネスをゼロから立ち上げる、インキュベーションです。当初はドローンやセンサーによるIoTビジネスでしたが、中盤からは人とデジタルの融合にシフトしました。
森本:なにかきっかけがあったのですか。
米林:はい、価値創出を意識すると、人による工夫が不可欠でした。ヘルスケアや観光、農業、社会基盤などのさまざまな分野に対して、デジタルマーケティングやオムニチャネル変革をテーマにしていたのですが、ここで強く気付かされたのは、テクノロジーや合理的な課題解決のアプローチでは、競合と大差のないアウトプットになるということです。そこに、パートナーやクライアントも含めた関わる人の工夫を掛け合わせ、共に描くビジョンやゴールにこそ、魅力や選ばれる理由など、成長の種が芽吹くことがわかりました。
だからこそ営業は、「どのように売るか、価値を伝えるか」ではなく、「どのように価値を共に創り上げるか」という、「ビジネスデザイン」を含めたマーケティングのアプローチをもって活動することが極めて重要だと私も強く感じています。
森本:おっしゃる通りです。顧客やパートナーと、共に価値を創るビジネスデザインを描いて、同じゴール、旗をめざす必要があります。
顧客との融合による、共創型デザイン営業の実現
米林:現在、私たちが東海エリアで自治体や民間企業に向けてご提案している、「tsuzumi」も含めた生成AIやDX人材育成などのDX推進についても同様ですね。特に「未来の姿を共に考え、共に創る」ことを重視しています。だからこそサービス導入だけでなく、ご要望に合わせて、前工程の課題整理や現状分析もそうですし、後工程の改善実行や継続的な発展にまで、伴走の範囲も前後に拡げて支援するようになってきています。まさに、AKKODiSさんとNTT西日本がうまく連携できているのも、甲乙の関係でなく融合して価値を一緒に磨いていく、「足し算ではなく、掛け算での共創」に向けた対話の積み重ねが成果に反映されてきている、よい流れを感じます。
森本:ありがとうございます。そうですよね。弊社のグループ会社であるアデコ株式会社との連携も含めて、これまでのビジネスではなかった新しい座組みができ、私達もプロジェクトを円滑に進められているよい流れを感じます。

米林:DXを推進すればするほど重視するようになったのが、「人とデジタルの融合」です。我々のDXの共創ラボ「LINKSPARK」では、「デザインシンカー」が「データサイエンティスト」と連携して、まさに課題の整理からアクションプランの検討までご一緒しています。特に直近1年間は、生成AIの普及により、多くのクライアント現場でもこの人の価値向上を重視する傾向が高まってきています。営業もアナログな個人戦からデジタルも掛け合わせたチーム戦にシフトしていく中、AKKODiSさんの組織内では、さきほどの「共創」や「デザイン」についてどのように浸透展開を図っているのでしょうか。

LINKSPARK NAGOYA
https://linkspark.jp/nagoya/
特別な営業である「Fusion Designer」
森本:AKKODiSは「人財の創造と輩出を通じて、人と社会の幸せと可能性の最大化を追求する。」を企業理念に掲げています。社員を人的資本と捉え、その能力開発を通じて一人ひとりの創造的価値を高め、人材を人財へと発展させ永続的に輩出していくことで、産業界だけではなく社会全体の発展に寄与することを目指しています。2030年に向けて掲げた新たなビジョン「日本企業を、世界企業へ、現場変革から。」を実現するために、フロント営業も大きな変革が求められます。そこで、AKKODiSでは、新たにめざすソリューション型営業を『Fusion Designer』と定義し、顧客にとって、いちパートナーではなく、顧客と共に未来の成長をデザインする“価値創造の共創者”になること。顧客のビジネスへ深く関わり、お互いの資産(アセット)を最大限に活かす融合型のソリューションをデザインし、リードする存在を目指しています。

米林:まさにこれは、パーパス経営への挑戦ですね。私も数年前に新会社を設立したときに、社員と幹部で議論してパーパスを策定しました。どうすればしっかり現場の社員にまで浸透するのか、お客様と共有できるようになるのか。パーパスの浸透を重点課題として捉え、ブランディングやマーケティングに従事してきました。そういう意味では、ソリューション営業を再定義する「Fusion Designer」という新たな役割は社内外の方の目に直接触れるので、とても大きな意味を持つ素敵な仕掛けだと思います。
森本:ありがとうございます。私は、Fusion Designerというフロント営業を「マーケットで価値のある存在にしたい」、そう思っています。例えば、A社やB社のフロント営業は、なんとなく凄そうな、なんとなくスマートそうな、なんとなく泥臭そうななど、角度によって、見え方や思われ方は違いますが、それはどれも本当で、それが存在価値であり、各社の営業ブランドになっています。分かりやすく言えば、甲子園常連校やインターハイ常連校で、実は今年は県内では弱いチームであっても、全国大会に出場すれば知名度による心理的優位性がはたらいて勝利することがあります。つまり戦略的に営業を特別な存在としてアップデートするコツが必要です。先ほどあげた会社も、決して全員が凄い営業ではないはずですが、企業価値という心理的優位性がはたらきます。従って、AKKODiSの営業を特別な人、特別な営業、特別なFusion Designerに変革できるかが、未来のカギだと思っています。
米林:なるほど。組織的に顧客に寄り添い価値向上を目指す。「営業×デザイン」とは、顧客の課題を深く理解し、最適な解決策を創造する力ですね。その力が組織のDNAにまで深く浸透していくことで変革を実現していくのだと。その“特別な”進化が楽しみです。
ともに拓く「IOWN構想」と未来の共創
森本:そうですね。「特別」という表現も、とても面白い受け止め方があります。私生活では、「特別な家族がいて、特別な仲間がいて、特別なモノを大切にしています」と違和感なく表現されています。一方、ビジネスになると、「なぜあの人だけ特別なの?あの人特別だよね。」となぜか特別が悪い表現で使われます。例えば、私にとって、IOWN構想への取り組みは、次世代のビジネスを担う特別なビジネスで、その主軸を担う、NTT西日本さんは特別な顧客で、そんな顧客からAKKODiSは特別なパートナーと想われ、そのアカウントをしている営業は、特別な存在として、むしろ誇りにするべきだと想います。Fusion Designerが、自分の担当している顧客にとって、あるいは、現場のプロジェクトに直接参画しているAKKODiSのテックコンサルタントにとって、特別な存在にならなくてはならない。特別な存在だからこそ、価値創造の共創者として選ばれ、顧客と共に未来の成長をデザイン、リードできる存在になると思います。

米林:この戦略的な組織営業がもたらす変革が、顧客への特別な価値を提供し、日本の社会全体の発展をけん引していく。そして、これからの未来を共創していくIOWN構想のグローバルパートナーとしても、世界をともにリードしていくという、とても大きな熱量を感じました。
森本:はい、この熱量、エネルギーをぜひお伝えしたいです。モノを売るだけではなく、このエネルギーをどこまでの顧客に届けることができるのか、Fusion Designerの挑戦を楽しみにしていてください。
米林:そのプラスのエネルギーをみんなに共有しながら、ぜひ一緒に進化していきたいですね。IOWN構想も単なる技術革新ではなく、企業の競争力を高め、社会全体の課題解決に貢献する“未来を切り拓く挑戦のための社会基盤”になろうとしています。現実と仮想の境界を超え、人とモノを掛け合わせることができると、これまでにない価値を生み出します。ですが、この未来をNTT西日本単独で実現することは困難です。 だからこそ、AKKODiSさんのように、組織や国境を横断して、さまざまな人と人が関わり合って共に価値を生み出すこと。その“共創”というワクワクする冒険を、より多くの仲間とともに楽しみたいですね。新しい未来を切り拓くカギとなるのがまさに「共創」ですね。
森本:この度、米林さんと対談させて頂くことで、過去の経験があるからこそ、今があり、未来へ挑戦できることも振り返ることができました。ありがとうございました。そして、「日本企業を、世界企業へ、現場変革から。」AKKODiSが掲げる2030年までのビジョン実現に向け、共創できることを願っています。
米林:素敵なビジョンですね。Fusion Designerは、温故知新であると同時に、成果を積み重ね、大きな変革をめざす”Connecting the dots”ですね。このビジョンを共有して、ぜひ多くのみなさんと”人ならではの価値”を高める未来をともにデザインしていきましょう。そして、この共創によって生まれた価値が一過性ではなく、持続的に発展するよう、世界をリードしていきましょう。本日はどうもありがとうございました。
