データ活用・分析により製造・管理の高度化を実現するスマートファクトリー。前回「なぜ今、スマートファクトリー化が急がれるのか? 3つの実現メリットとは」では、スマートファクトリーの定義や必要とされる市場背景、メリットなどについてご紹介しました。今回は、スムーズな導入方法や導入にあたっての課題、成功事例などについてご紹介します。
人材活用に関するお役立ち情報をお送りいたします。
Index
- スマートファクトリーとは
- スマートファクトリー導入の手順
- 1.現状の把握(AsIs可視化)
- 2.ありたい姿を描く(ToBe明文化)
- 3.ToBeモデルを設計する
- 4.ToBeモデルへの共感・納得感醸成
- 5.各ソリューションの導入検討成
- スマートファクトリーを成功させるためのポイント
- 小さく始めて成功体験を積み重ねる
- コンサルティングファームなど第三者を巻き込む
- スマートファクトリー化を目的にしない
- スマートファクトリーの事例
- スマートファクトリー化のスタートをきるために
スマートファクトリーとは
スマートファクトリーとは、現場のあらゆる状態をデジタル化して可視化し、そのデータに基づいてAIなどを駆使して、工場や会社全体でPDCAを素早く回し、品質や生産効率の向上を実現する仕組みのことです。生産管理・生産現場・物流までの全体をつなぐことで、全体最適化による適切なPSIの立案・運用、ものづくりの省力化・省人化・効率化、新しい価値の創出、属人的な技能の継承などを実現します。
詳しくは「なぜ今、スマートファクトリー化が急がれるのか? 3つの実現メリットとは」をご覧ください。
スマートファクトリー導入の手順
スマートファクトリー導入までの手順は、広く知られているフレームワークのひとつである「AsIs/ToBe」を活用するとよいでしょう。現状の問題を知り、理想の状態を描き、そこに到達するためのアクションを考え、実行します。このフレームワークに落とし込むと、スマートファクトリー化は「手段」であることを改めて確認できます。
では、実際の導入手順を見ていきます。スマートファクトリー導入への道は次の5つのステップに分かれると考えられます。
- 現状の把握(AsIs可視化)
- ありたい姿を描く(ToBe明文化)
- ToBeモデルを設計する
- ToBeモデルへの共感・納得感醸成
- 各ソリューションの導入検討
1.現状の把握(AsIs可視化)
まずAsIs(現実)を可視化して、現状を把握することから始めます。業務のプロセスと、業務で使うデータがどこにあるかを可視化しましょう。業務プロセスの遷移とデータの遷移を、一体的に進めるのが理想的です。
また、第三者視点が入るほうが作業の正確性は増します。現場を知り、普段の業務に慣れている人が現場を可視化しようとしても、課題を課題として認識できない場合が多いためです。おもに部課長クラス、いわゆるミドルマネジメント層にヒアリングしながら、業務フロー図などを作成して現状を把握します。
このステップを自社だけで行おうとしたり、ソリューションベンダーに任せたりするケースも見られますが、コンサルティングファームに依頼すればスマートファクトリー化の方向性や着地点を正確に描きやすくなります。作業としては「現状の棚卸し」ですが、きちんと目的にスコープして進めていくことがポイントです。
2.ありたい姿を描く(ToBe明文化)
次は、理想の姿を描くステップです。前のステップと同様に、ミドルマネジメント層に将来ビジョンなどをヒアリングしながら、目指す姿を描きます。また、経営層に対してSDGsへのコミットメントや全社的なDX推進の方向性や目的などについて、ヒアリングしてもよいでしょう。ヒアリングを進める中で、現場の課題を深掘りする必要が生じれば、現場監督レベルの層にも話を聞きます。
3.ToBeモデルを設計する
ステップ2で理想の姿を描いたら、次はそれをさらに具体化します。それにより、AsIsとToBeの正確なギャップを把握し、それを埋めるための設計図を描くことができるようになります。どういう業務でありたいのか、どういう結果を出したいのか、そのための課題は何かなどをリストアップします。そうすると、AsIsとのギャップが浮き彫りになります。そのギャップを埋めるためにどのようなソリューションをどのように展開するべきなのか、現実に落とし込むためのToBeモデルを設計していくのです。
例えば、今、多くのものづくり企業が生産計画の立案に悩みを抱えています。しかし、コロナ禍や国際情勢によって需要が大きく変動し、原材料調達やサプライチェーンは混乱状態に陥っています。その結果、計画を実施する直前で状況が変わってしまうことも往々にしてあり、生産の段取りを変更しなければならないなど、企業にとっては大きな負担がかかる状況です。こうした場合は、変動要因をAsIs、需要予測の精度を上げることをToBeモデルとします。そしてそれを実現するためのツールを導入するなどして、需要変動に耐えられるように業務プロセスを改善するモデルを設計するということになります。
ただし、あくまでもToBeは理想型。分析の結果、一足飛びには夢をかなえられないと分かることも多く、その場合はできることから改善していく「CanBeモデル」を設計します。
4.ToBeモデルへの共感・納得感醸成
スマートファクトリーは、各部門が連携し、全社一丸となって取り組まなければ実現できません。しかし、新たな変化に対して抵抗感を覚える人は、どんな場合でも存在します。そこでステップ3で設計したToBeモデルに対して、全社的に共感してもらったり、納得してもらったりする必要があるのです。
そのためには、ポイントがふたつあります。次の章でも触れますが、ひとつは、スマートファクトリー推進の旗振り役として、役員クラスの人物を専任マネジメントとして立たせ、その人物がボードメンバーや部門長クラスの納得感を醸成しながら推進すること。スムーズな導入に成功している企業には、この役割を担う人物が必ず存在しています。
もうひとつは、IT推進部やDX推進室などの横串部門が、ToBeモデルを発案すること。
製造部門からの発案では、利害関係のある他部門からの反発などにより、全社推進の障害が発生しがちです。一刻も早く製造部門の業務プロセスの改善をしたい場合、このプロセスを踏むと時間がかかる可能性があります。そこで、製造部門でまずスモールスタートし、PoCを回したり、一定の成果を得てから、横串部門に話を通して全社推進を図るのです。
5.各ソリューションの導入検討
ステップ4までが完了したら、いよいよToBeモデルを実現できるソリューションの導入検討を始めます。ソリューションについては、コストメリットや安定性などから、パッケージの導入が基本です。
パッケージの機能が7割以上フィットするならば、パッケージをそのまま導入することも視野に入ります。しかし、さまざまなパッケージで検討しても4割しかフィットしない会社もあります。その場合、パッケージソフトをオーダーメイドして残りを埋める、または6割の業務改善を求めることになりますが、実はそれこそ現場から抵抗が出る大きな理由です。このような場合は、ワークショップを開催するなど、現場のモチベーションやマインドセットを変える必要があります。「納得感をもって人の行動を変える」アクションにはノウハウや経験が必要なので、こういったDX推進をサポートするコンサルティング企業に依頼するのもよいでしょう。
スマートファクトリーを成功させるためのポイント
導入の5ステップをスムーズに踏んでいくために、いくつかのポイントをご紹介します。
小さく始めて成功体験を積み重ねる
製造部門での業務プロセス変革は、他部門にも影響を与えるため、社内で軋轢を生む可能性があります。全社規模での業務プロセス改革を製造部門で推し進めるのは、現実的ではありません。最初から全体最適の視点だけで物事を進めようとせず、PoCなどによって成功体験をクイックに積み重ねていくことが大事です。まずスモールスタートで成果を生み出し、そこから全社に広げていくという手法です。少ない予算で始められることもあり、動き出しとして効果的です。
コンサルティングファームなど第三者を巻き込む
スマートファクトリーの導入には、AsIsを始め、さまざまな場面で俯瞰(ふかん)的な目線が必要になります。第三者目線でないと、課題があっても見落としてしまいがちなためです。したがって、依頼者と併走するスタイルのコンサルティングファームを利用するのは、とても効果的です。コンサルティングファームは、スマートファクトリーに関する知見や情報はもちろん、さまざまな業界についての知識も豊富です。例えば、同業他社の動向など、有用な生情報を得ることもできます。また、人材育成・開発など、プロセス改革で圧縮した時間の有効活用についても相談することができます。
スマートファクトリー化を目的にしない
すでにスマートファクトリー化に取り組んでいる企業は、数多くあります。しかし、そのすべてが成功しているわけではありません。
ではなぜ効果が出せず、停滞してしまうのでしょうか? 冒頭でも述べた通り、それは「ソリューションありき」で、手段が目的になってしまっているためです。
スマートファクトリーとは、ただ単にシステムや作業を自動化することではありません。現状の業務プロセスを可視化することで、ボトルネックを認識し、業務プロセスの新しい姿を設計することが重要です。
スマートファクトリーの事例
成功事例をいくつかご紹介します。
この表は横スクロールでご覧いただけます
業種 | 取り組み | 効果 |
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総合メカトロニクスメーカー | バリューチェーン全体のデジタル化のために、統合的なシステムを開発 |
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金属加工 | 独自のIoT システムによる工程進捗状況と工作機器稼働状況の可視化 |
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総合エレクトロニクスメーカー・ 総合ITベンダー |
過去の熟練技術者の製品設計データに含まれる知識やルールを整理し、再利用する際の最適解の抽出にAIを活用 |
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精密加工 | 見積作成のノウハウをデジタル化することで、見積作成を誰もが容易に行えるシステムを開発 |
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ネット通販 | 可動式の商品棚と自動搬送ロボットからなる最新ロボットシステム物流拠点に導入 |
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板金加工 | 作業の進捗や機械の不具合などをシステムが分析し、そのデータをタブレット端末やスマートフォンで社員全員が確認・共有 |
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アルミ加工 | 日中に図面を見ながらデザインやプログラミングを行い、夜には機械がデータどおりの加工を行い、朝には加工品が仕上がる仕組みを構築 |
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光学機器・電子機器メーカー | 高度技能者の持つ「匠の技」を数値化して、機械化・自動化を推進 |
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食品製造・販売 | 検査工程に人工知能(AI)機能を搭載した検知器やIoT 技術を導入 |
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※経済産業省「2020年版ものづくり白書」を加工して作成
スマートファクトリー化のスタートをきるために
日本のものづくりは、まだ過去の成功体験から抜け切れていないという声も聞かれます。これからは多くの技術や知見を水平展開したり、結びつけたりすることが重要なのは、競争力強化の面から見れば明らかです。だからこそ、多くの業界を見ているコンサルタントに相談すれば、自分たちでは思いもよらなかった発想を得られるかもしれません。また、その繋ぎ込みの役割を果たすエンジニアの獲得をすれば、スマートファクトリー化は加速させることができるかもしれません。
まずは課題や危機感を声に出してみる。そして誰かに相談してみるということを始めれば、スマートファクトリー化、競争力強化のスタートはきれるでしょう。