SAP BTPとは、世界を代表するドイツのソフトウェア会社「SAP社」が提供する、データやアプリケーション開発など複数の機能を単一の環境にまとめて管理・運用できる、デジタルプラットフォームのことです。Amazon Web ServiceやGoogle Cloud Platformなどのクラウドサービスプロバイダを活用しながら、SAPアプリケーションとの連携ができます。
本記事では、SAP BTPの概要や代表的な機能、メリット、導入事例などについて詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
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SAP BTP(Business Technology Platform)とは
SAP BTP(Business Technology Platform)とは、ドイツのソフトウェア会社SAP社が提供する、アプリケーション開発やデータ管理、AIなどの機能を単一の環境にまとめて利用できるデジタルプラットフォームのことです。SAP BTPは、デジタルサービスのなかではPaaS(Platform as a Service)に分類されます。
SAP BTPの大きな強みは、SAP製品との連携に最適化されていることです。また、迅速なアプリケーション開発が実現できたり、さまざまなデータの準備や移動を効率化できたりします。さらに、SAP BTPはマルチクラウドに対応しており、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platformなど、好きなクラウドサービスプロバイダを活用しつつBTPを拡張でき、SAPのアプリケーションとの統合も可能です。(当然ながらSAP Cloud上での使用も可能です。)
2024年1月時点において、世界で16,000を超える企業がSAP BTPを導入しています。
SAP BTPの歴史
SAP BTPはSAP社の製品のなかでも比較的新しい部類となりますが、プラットフォームの機能や構造の一部は、昔から存在しているものが使われています。
SAP BTPの前身となる製品は、2010年代初頭ではSAP HANA Cloud Platform(SCP)と呼ばれていました。その後、SAP Cloud Platform(SAP CP)になり、2020年に現在の名称SAP Business Technology Platform(SAP BTP)となりました。
SAP BTPは、単なる技術的なプラットフォームではありません。BTPのBは「ビジネス」を指していることから、これらの名称変更は、さまざまな技術を活用した「ビジネス」プラットフォームへの変化を示しているといえます。
SAPのクリーンコア戦略とは
SAPのクリーンコア戦略とは、中核となるERP※の標準機能を最大限に生かしながら、カスタマイズを最小限に抑える(=ERPに大きな変更を加えない=クリーンに保つ)ことを目指すものです。
クリーンコア戦略のメリット
クリーンコア戦略のアプローチを採用することで、ERPへの影響を最小限にしながら、プロセスの自動化、データベースサイズの削減なども実現可能です。ビジネスの多様化により業務プロセスは変化し、企業は柔軟に対応していかなければなりません。クリーンコア戦略では、業務プロセスの変化に対してアップデートや新機能の実装が必要になったとき、スムーズかつ迅速に対応できるERP構築の実現を目的としています。
クリーンコア戦略の具体例
クリーンコア戦略では、クラウド活用を基本にしつつ、ERPに極力影響を与えないように、ワークフローの自動化やAPI連携、AI活用などを実現します。クリーンコア戦略を実現するには、ERPをクリーンに保ちながら必要な機能拡張ができるシステムの導入が欠かせません。そこで、SAP BTPが重要な役割を担うのです。
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※ERP:Enterprise Resource Planningの略称で、日本語では「統合基幹業務システム」のこと。企業の基幹業務(会計や人事、販売など)を統合して一元管理するためのシステムを指す。
SAP BTPのメリット
SAP BTPを使うと、次のようなメリットがあります。
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1.アプリケーション開発のスピード向上
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2.スクラッチ開発したアプリケーションと連携できる
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3.ノーコードツールも提供されている
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4.エンタープライズ領域のクラウドアプリケーション開発に強い
各メリットについて、以下で詳しく解説します。
アプリケーション開発のスピード向上
SAP BTPには、ネットワークやサーバー、OS、ミドルウェアなどの環境がすでにあるため、小規模アプリケーションのプロトタイプ開発※などのスピードを向上できます。また、開発のほか、分析や統合も迅速に行える点が大きなメリットです。
さらに、アプリケーション開発のプロセスを自動化できる機能(SAP Build Apps)も利用すると、よりスピード向上が見込めるでしょう。
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※プロトタイプ開発:プロトタイプ(試作品)を作成して、利用者や顧客の評価を反映させながら完成を目指す開発方法のこと。
スクラッチ開発したアプリケーションと連携できる
SAP BTPでは、アプリケーション開発、データ管理、分析、インテグレーション、AIといった機能がすでに単一のPaaS上で提供されているため、スクラッチ開発※1したアプリケーションとAPI※2を介して連携できます。
これにより、自社向けにカスタマイズされたコミュニケーション基盤の構築が実現可能です。
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※1スクラッチ開発:ソフトウェアやアプリケーションをゼロから構築し開発すること。
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※2API:Application Program Interfaceの略称で、ソフトウェアやアプリケーションをつなぐ役割を果たす。
ノーコードツールも提供されている
SAP BTPでは、GUI※1やノーコード※2、ローコードツール※3の提供もされており、フルスクラッチ開発に慣れていないエンジニアでも、活用しやすい点がメリットです。そのため、エンジニア不足に悩んでいる企業においても、開発の効率化が進むと期待できます。
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※1GUI:Graphical User Interfaceの略称で、ユーザーがコンピュータに対して直感的に命令できるインターフェースのこと。アイコンボタンをクリックしてアプリケーションが起動することなどが一例としてあげられる。
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※2ノーコードツール:プログラミング言語(コード)を使用せずに開発ができるツールのこと。
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※3ローコードツール:最小限のプログラミング言語(コード)で開発ができるツールのこと。
エンタープライズ領域のクラウドアプリケーション開発に強い
SAP BTPは、大企業や公的機関といったエンタープライズ領域にも十分通用するクラウドアプリケーション開発ができます。
なぜなら、SAPが認定したセキュアなデータセンターで稼働する仕組みが採用されるなど、SAP BTPはデータ保持に関する安全性やコンプライアンスを遵守したシステムだからです。SAPのデータセンターは火災やデータ侵害など、多様なリスクから保護されていて、定期的なテストや認定が実施されています。
SAP BTPが必要な理由
ここでは、SAP BTPが必要な理由について、詳しく解説します。
SAPはバージョンアップ時に追加開発(アドオン)が足枷となりえる
SAP製品を使用して、SAPの標準機能に備わっていない要件への対応が発生した場合、個別に機能を開発する「追加開発(アドオン)」が必要です。しかし、アドオンが増えるとシステムが複雑化し、バージョンアップ時の足枷になる可能性があります。
また、バージョンアップを正確に行うには、アドオンをシステムから切り離すなどの手間もかかります。
そこで、SAP BTPを導入してアドオンを実装し、APIなどでSAP製品と連携する構成にすると、バージョンアップ時の影響を最小限に抑えられるのです。
そのため、SAP BTPを活用することでSAPそのもののカスタマイズを最小限に抑えられ、クリーンコア戦略に一歩近づくといえます。
SAP BTPに期待される役割
SAP BTPでは、サイロ化を抑制してDXを加速する役割が期待されています。
サイロ化を抑制しDXを加速することが求められている
企業の競争力を高めるためには、DXを加速させる必要があります。近年、企業ではDXの実現を目的に複数のSaaSソリューションが導入されていますが、数が多いと連携や統合が複雑化し、ビジネスプロセスが分断しやすい点がデメリットです。
また、部門ごとでデータがサイロ化※しやすく、適切に利活用できなくなり、DXを推進するための基盤が構築できません。
そこで、SaaSソリューションや従来のオンプレミスシステムなど、分散した業務ソリューションを統合するための単一プラットフォームが必要になります。SAP製品をERPとして導入している場合、SAP BTPは親和性が高く、その役割を果たしてくれます。
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※サイロ化:業務プロセスやアプリケーションが孤立し、情報やデータが適切に連携されていない状態のこと。
SAP BTPの代表的な機能
現時点(2024年7月時点)において、SAP BTPの機能は91に及びます。ここでは5つのソリューションに分けて、代表的な機能を紹介するので、参考にしてみてください。
アプリケーション開発と自動化
アプリケーション開発と自動化のソリューションでは、プロコードだけでなくローコードやノーコードでのアプリケーション構築が可能です。
また、事前に構築されたワークフローやRPAボットも利用できます。現時点(2024年7月時点)では21の機能があり、代表的な機能は次のとおりです。
SAP Business Application Studio | クラウドベースのIDE(統合開発環境)で、グラフィカルエディタ、デプロイメント機能などが利用できる。 |
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SAP Build Apps | ローコード開発プラットフォームで、コードを1行も書くことなくエンタープライズ向けアプリケーションを構築できる。アプリケーションのバックエンド処理も含めた開発が可能。 |
SAP Build Process Automation | ノーコード/ローコードで開発できるためビジネスユーザーも利用できる。ワークフロー管理機能やRPAが用意されていて、専門知識がなくても業務プロセスの自動化ソリューションを開発できる。 |
データとアナリティクス
データとアナリティクスのソリューションでは、データの場所を問わず、インサイトにアクセスできるサービスを利用できます。現時点(2024年7月時点)で12の機能があり、代表的な機能は次のとおりです。
SAP Datasphere | 企業内のさまざまなソースからデータを効率的に統合し、データドリブンな意思決定プロセスを促進するサービス。データ統合、カタログ化、データウェアハウスなどの機能を有している。 |
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SAP Analytics Cloud | 分析と計画を組み合わせ、あらゆるシナリオをシミュレーションできるSaaS向けクラウドソリューション。分析と計画を統合することで、インサイトからすぐに実行可能な計画を自動で作成する。 |
統合
統合ソリューションでは、データとプロセス連携によってシームレスなビジネスプロセスが実現できます。
現時点(2024年7月時点)では8つの機能があり、代表的な機能は次のとおりです。
Integration Suite | 組織内外のアプリケーション、データ、プロセスをシームレスに接続し統合するサービス。 |
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SAP Data Intelligence | 分散データ環境で管理されたデータのオーケストレーション、強化などを行うことができる。 |
拡張計画および分析
拡張計画および分析ソリューションでは、データにもとづき全業務部門へ計画を拡張できます。代表的な機能は次のとおりです。
SAP Analytics Cloud, embedded edition | レポート、ダッシュボード、ビジュアルを構築し、ビジネスアプリケーションに埋め込むことができる。リアルタイム分析を可能にし、迅速な意思決定を促す。 |
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人工知能
人工知能ソリューションでは、訓練済みの業務別AIモデルを用いることで、アプリケーションに対してAIをすぐに組み込めます。現時点(2024年7月時点)で8つの機能があり、代表的な機能は次のとおりです。
SAP AI Core | AIアセットの実行と運用ができ、SAPシステムとスムーズに連携できる。 |
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SAP AI Launchpad | 複数のAIシナリオを管理できる。 |
SAP BTPの活用例
SAP BTPの活用例として、以下の3つを紹介します。
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1.請求書登録の自動化
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2.シームレスな人事データ管理を実現
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3.市場シェアを予測
SAP BTPの細かな活用方法とその効果について、詳しく見ていきましょう。
請求書登録の自動化
SAP BTPの機能「SAP Build Process Automation」を使用し、テキスト画像を文字コードに変換するOCR技術を用いたRPAボットによって、請求書登録プロセスの自動化を行えます。具体的な業務プロセスとシステムプロセスは、以下のとおりです。
SAP Build Process Automationによる請求書登録の自動化
■業務プロセス
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1.従業員が請求書をコンピュータにアップロードする
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2.従業員がワークフロー開始のフォームを上長に対して送信する
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3.上長が承認または拒否の登録を行う
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4-1.承認された場合はクラウドのAPIを経由して請求書が登録される
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4-2.拒否された場合は従業員に通知が届き再度アップロードし登録を行う
■システムプロセス
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1.開始のフォームの設定を認識し、ワークフロー開始
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2.請求書の画像を取得
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3.OCR技術によって、請求書の情報を抽出
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4.情報にもとづき、承認すべき上長を決定し承認依頼を送信
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5.承認後、請求書登録APIを呼び出し、請求書を登録
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シームレスな人事データ管理を実現
SAP BTPのクラウド人事ソフトウェアである「SAP SuccessFactors」や、経費精算システム「SAP Concur」を使用して、人事労務、勤怠、給与計算、スキル情報など、一気通貫でデータ管理ができます。人事関連の業務プロセスをシームレスに管理でき、業務効率化の実現が可能です。
市場シェアを予測
SAP BTPにおいて「SAP HANA Cloud」や「SAP Analytics Cloud」といったクラウドサービスを利用することで、市場シェアの予測が可能です。
SAP HANA Cloudとは、あらゆる業務プロセスに対応し堅牢性の高いセキュリティ性を備えた、アプリケーションを大規模に構築・導入できるクラウドシステムのことを指します。また、SAP Analytics Cloudは、SAPプラットフォームに標準的に実装されている、分析と計画立案を高精度かつ最適に行うクラウドシステムです。
これらのシステムにより、予測分析が合理的かつ効率的に行えます。実際に活用した事例では、24時間365日データを予測し、かつ過去のデータをもとに原因分析を行い、異常事態が起こる前(20時間〜120時間前)に、77%正確に報告することに成功しています。
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SAP BTPの導入事例
SAP BTPを導入し、業務効率化や売上の向上など、ビジネスの目標達成を実現している企業は多く存在しています。以下では、ドイツのUniper社とアメリカのMOD Pizza社における導入事例を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
Uniper社の導入事例|ドイツ
Uniper社は、ドイツに本社を構え、電力・公益事業を行うエネルギー会社です。Uniper社は、業務全体のプロセスを拡張、自動化、革新するために、SAP BTPを導入しました。導入の結果、以下のような効果を生み出しています。
- リモートワーク申請処理の生産性を70%向上
- 人事コンプライアンスと二重課税に関するリスクを25%低減
- 資源の調達業務における権限委任に要する時間を80%短縮
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MOD Pizza社の導入事例|アメリカ
MOD Pizza社は、アメリカに本社を構え、500以上のピザチェーンレストランを展開している企業です。MOD Pizza社は、採用から退職までの人事プロセス、およびそれに伴う業務プロセスの自動化を行うため、SAP BTPを導入しました。導入の結果、以下のような成果を生み出しています。
- 新人研修を完了した新規採用者数が1,000人/月を達成
- 手動によるデータ入力や統合エラー分析にかかる作業を15時間/週削減
さらに、データ保守にかかるコスト削減も成功し、将来のビジネステクノロジー拡大の基盤構築にも取り組んでいます。
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SAP BTPの導入・活用・内製化ならAKKODiSにご相談ください
AKKODiSでは、SAP BTPの導入から、保守、運用、内製化に向けた、「SAP Business Technology Platform 導入・活用支援サービス」を提供しています。
経営・DX戦略と連動したSAPの全体設計、SAP BTPを活用した戦略実現に向けたロードマップ・ガバナンスの策定などを支援します。
また、SAP BTPの運用を内製化するための、人材育成支援も行っています。SAP運用の内製化により、システム開発のブラックボックス化を防ぎ、ノウハウを資産として社内に蓄積できます。
まとめ
SAP BTPでは、SAPが提供するアプリケーションやプラットフォームだけでなく、さまざまなサービスや機能を一つの環境にまとめて管理・運用できます。アプリケーション開発のスピード向上やビジネスにおける計画や分析の効率化など、幅広い経営課題の解決が可能です。
SAP BTPを導入している企業は2024年1月時点ですでに世界で16,000社を超えており、業界や企業規模にかかわらず効果を出しています。クラウドサービスの管理が複雑化し、非効率な業務プロセスに課題を抱えている場合は、SAP BTPを導入することで大幅な改善が見込めるでしょう。
SAP BTPを社内に定着させ内製化を実現するには、SAP BTPの知識だけではなく開発スキルと経験が豊富なエンジニアが必要です。
AKKODiSでは、「SAP Business Technology Platform 導入・活用支援サービス」を提供しています。SAPの導入・活用のためのご支援はもちろん、SAPの運用内製化のための人材育成についてもサポート可能です。まずは気軽にお問い合わせください。