#教育DX #みんなのIT先生 #町の電器屋さん #自走
今回は、地方創生プロジェクト『ソーシャル・イノベーション・パートナーズ(以下、SIP/シップ)』プログラムから、福島県矢祭町の事例を紹介。2021年に同町で初めての地域活性化起業人に着任し、教育委員会と協力しながら学校教育のDXをサポートしているグループマネージャーにインタビューしました。地方創生活動とテックコンサルタント※業務を両立する中で見えてきた地方におけるDXの取り組みや社会課題、キャリアパスの新たな可能性など、現地で感じたことを詳しく聞いていきます。
※AKKODiSではエンジニアの呼称を「テックコンサルタント」としています。
エンジニアリングスキルを活かした次のステップへ。
これまで私が担当してきた主な業務領域は、ITインフラの設計や構築です。企業用モバイルを軸にしたアカウントSE業務やPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)業務にも携わり、クライアントの課題に向き合いプロジェクトをリードする仕事を積極的に経験してきました。入社時から、「SE業務をやりたい」という気持ちとともに「何かを変えていく」提案業務にも挑戦していきたいという想いがあったからです。
そうした想いを原動力に企業への改善提案の実績を積みながら、クライアントの上層部とも対話ができる力をつけてきました。さらに業務の幅を広げていきたいと考えていたときに、社内で『SIP』が始まることを知りました。いままで仕事の主な関りは企業ばかりで、自治体の方々とプロジェクトを動かした経験はありませんでしたが、次のステップに進むためには良い挑戦になると思い『SIP』への参加を決めました。
現在は、週の半分を福島県矢祭町の地方創生活動に充てています。矢祭町での活動は2020年にスタートしていますが、私は途中からの参加。プロジェクト発足当初、GIGAスクール構想※1への対応が必要とわかったものの、その分野に明るい人財がいませんでした。そこでモバイル端末を扱う施策に適したメンバーとして私が選ばれ、2021年から合流したんです。同年には矢祭町初の地域活性化起業人※2に着任し、地域の皆さんや教育委員会と協力しながら学校教育のDXに取り組んでいます。
※1GIGAスクール構想:2019年に文部科学省が発表した教育構想。全国の児童・生徒に学習用ICT端末と高速ネットワーク環境を整備し、子どもたち一人ひとりの創造性を育むICT教育を提供する取り組み。
※2地域活性化起業人:地方公共団体が三大都市圏に所在する民間企業の社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かしながら地域独自の魅力や価値の向上につながる業務に従事してもらい、地域活性化を図る制度。
町内の電器店を巻き込み、地域内のIT環境を整備。
電器店を窓口にして導入されたタブレット端末の活用方法を生徒へレクチャーする様子。
GIGAスクール構想の実現に向けてまず取り組んだのが、公立小中学校へのタブレット端末の導入支援です。全生徒と先生に行き渡らせるために必要な台数は450台。「何を揃えればいいのか」「どこから端末を調達するのか」というような基礎的な部分から教育委員会と決めていきました。このときに意識していたのが、地域経済の活性化につなげること。
実はGIGAスクール構想には「地域事業者がICT端末の調達から保守まで担うことで、地域内で経済が回る」というメリットがあります。しかし実際は、経験の少ない地域事業者に依頼されることは少なく、豊富な実績を持つ都市部の事業会社に依頼が流れてしまうケースがほとんど。多くの自治体が、地域活性化のチャンスをうまく活かせていないことが課題でした。
自治体で自走の仕組みを作るために、私たちは町内の電器店を対象とした講習会を開き、端末の調達方法やトラブル対応など、導入に必要な知識やノウハウをレクチャーしていきました。その後も不明点が出てきたら個別に話を聞いたり追加で講習会を開いたりと、町内の電器店がタブレット端末の窓口を担えるように徹底的なサポートを実施。皆さんが頑張ってくれたおかげで、今は私たちに頼らなくても、さまざまなトラブルに対応できるようになりました。
「ITに詳しい先生」のような存在として、
不安解消から利活用の促進までサポート。
もちろん、タブレット端末を導入しただけでは利用につながりません。そこで、タブレット導入を不安視する保護者の方や先生方のケアを大切に行いました。「遊び道具になるのでは」「夜更かしの原因にならないか」といった不安に対しては、「アプリやサイトの利用制限」「夜間使用の制限」など、端末の機能や設定をカスタマイズしていることを伝え、理解をしていただくようにしました。また、先生方の利用支援として、基本的な操作方法を習得する講習会を定期的に開催。外部の人というよりもITに詳しい先生のような立ち位置で、迷うことがあればいつでも個別に相談できるような体制も整えて、可能な限り細やかに対応していきました。
その甲斐あって、例えば「デジタルのことはよく分からない」と言っていた先生も、今ではチャットアプリを使った連絡、資料共有などのコミュニケーションや、授業でアプリを使い課題を配布、提出させるといったことができています。当事者一人ひとりの悩みごとや困りごとに寄り添いつつ、本質的な課題は何かを考えプロジェクトを推進していくことが、欠かせないポイントだと思います
最近は「利用支援」から「活用支援」にシフトして、本来の目的である「学校教育のDX」に力を入れはじめています。例えば、テストの採点では用紙を配り、集めて、丸付けをして、返却して……と、想像よりも多くの手間がかかっていました。これをデジタル化することで、テストの配布から返却まですべて自動化し、生徒一人ひとりの結果を瞬時にデータにまとめることができます。さらに、クラスや学年別に理解が低いところを把握し原因を分析したり、生徒ごとの結果の推移をみることで個別に最適な学習指導も可能になります。
全国的に先生方の長時間労働が問題になっていますが、DXを推進し、利活用を促進していくことで着実に解決に導いていけるのではないかと実感しています。
社内のネットワークを活かして、地方に潜む共通課題を解決していく。
教育分野に限った話になりますが、地域活性化起業人として一つの自治体と密に向き合うことで、わかってきたことがあります。それは、地方自治体それぞれに多少の違いはあっても、抱えている課題の本質は共通しているということ。
そのひとつが、「校務のDX」。矢祭町の状況を見て、地方では児童や生徒の人数が少ない分、先生が頑張ればアナログのままでも対応できてしまうため、デジタル化が進みにくい傾向があると感じました。さらに、地方の学校は都心に比べると人気が低く、先生の入れ替わりが激しいために、仮にDXが進んでも、新しく赴任してきた先生が活用できなければ、その先生だけアナログになってしまい学校・自治体として進める上での課題になるということとにも気がつきました。
このような事象は矢祭町に限らず、多くの地方自治体に共通するものではないかなと思うんです。そう考えると、矢祭町での成功事例は他の地方自治体に横展開できる。通常、自治体同士での情報共有の場は限られていると思いますが、AKKODiSには私以外にも学校教育に携わっている地域活性化起業人が複数名いるので、このネットワークを活用し、広く国内の課題解決につなげていきたいと思っています。
目標は「自走できる自治体」。
矢祭町をモデルケースに地方社会の課題解決へ。
『SIP』の醍醐味は、自治体という一つの組織を変えていく過程に自分自身が関われることだと思います。いままでの仕事は特定の部門における改善業務が多く、企業全体から見たら限定的であると感じることもありました。しかし矢祭町の活動では何か一つ改善していく度に、地域の仕組みが変わり、暮らしが変わっていく。自治体の方々の役に立っている実感や、そのスケールの大きさにやりがいを感じています。
社会課題をデジタルの力で解決に導くために試行錯誤した経験は、自分のキャリアの選択肢を広げてくれるはず。地域社会を動かすことは一筋縄ではいきませんが、挑戦してみる価値があると思います。
現在、矢祭町の「地域活性化起業人」になってから約2年が経ちました。この制度の任期は3年なので、活動はあと1年です。私たちの目標は、矢祭町に「自走できる自治体」になってもらうこと。そのために精いっぱい伴走していくつもりです。また私たちがいなくても、自治体だけで円滑にDX推進をしていける状態にすることこそが本質的な社会課題の解決につながると考えています。任期満了となる2024年9月までに、可能な限り自走できるように伴走し、学校教育DXの成功モデルとして全国に発信していきたいですね。
PROFILE
浅井
Plattform Business事業本部 キーアカウント第4事業部 ソリューションサービス第2グループ グループマネージャー
2012年、AKKODiSに中途入社。30歳で未経験であったが技術研修を経て、ネットワークエンジニアリング業務に従事。現在は教育や研修、OS、コンサルティング等のプリセールスや企業の業務用端末の管理やPMOなど、幅広い業務に対応している。2021年には福島県矢祭町の地域活性化起業人に任命され、学校教育のDXをサポートしている。
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※インタビュー内容、所属は取材当時のものです。